ウィキペディアで「鉄道貨物輸送」をチェックすると、「貨物列車とは1台以上の機関車によって牽引される貨車の編成」を定義していますが、これは動力集中方式であることを指しています。
日本の鉄道では、旅客輸送では電車など動力集中方式が主流ですが、貨物輸送においてはそのほとんどが動力集中方式です。
貨物輸送を深堀する上では基本的なこととなるので、ここで整理することにしました。
動力集中方式と動力分散方式
列車の動力方式(動力の配置)としては、一般的にはこの2種類に大別されます。
- 「動力集中方式」・・・列車が1両または2両程度の動力車によって牽引または推進される方式
- 「動力分散方式」・・・列車を編成する車両のうち多数の車両が動力を持つ方式
鉄道の歴史は、蒸気機関車の牽引による動力集中方式から始まり、発展をしてきました。
ヨーロッパなどでは、近郊輸送の小型電車や気動車(=動力分散方式)は昔から存在しました。
しかしながら、長距離高速列車については、前面展望デザインで有名な「セッテベロ」に代表されるイタリア国鉄のように、古くから動力分散方式を採用してきた国もありますが、全体で見れば今も動力集中方式が主流となっています。
フランスの誇るTGVなどは、列車の両端を動力車とし客車を挟み込むような、いわゆるブッシュブルの形態で編成を組む動力集中方式で、今後もこの方式を採用していくようです。
日本の旅客列車は動力分散方式が主流に。
日本では、1940年代頃までは長距離列車はその大半が蒸気機関車が牽引による「動力集中方式」となっていましたが、旅客列車においては、国鉄が1960年から取り組みを開始した動力近代化計画やその後登場した、151系・153系、小田急SE車・新幹線0系電車などの新性能電車の登場もあり、「動力分散方式」が主流となりました。
その後もしばらくは、ブルートレインや地方ローカル地域などで客車列車による動力集中方式は残りましたが、夜行列車の衰退・普通列車の短編成化(客車列車の電車化)などにより徐々に動力分散方式に切り替わっていきました。
現在では通勤・ローカル輸送から新幹線のような超高速長距離列車など、旅客輸送のあらゆる部分が動力分散方式となり、動力集中方式はJR九州のななつぼしや大井川鉄道井川線、観光・イベント用のSL列車などでみかける程度となっています。
動力集中方式のデメリット
動力近代化計画以降、旅客列車が「動力集中方式」から「動力分散方式」に切り替わった理由、「動力集中方式」のデメリットについては、以下のようなことが挙げられます。
【軌道に与える影響】
動力集中方式の場合、動力車(機関車)と被牽引車(客車・貨車)との重量差は大きく、特に動力車の重量・軸重が極端に重いことから加速時や曲線通過時に軌道に与える負荷が著しく大きくなります。
また、分岐器や橋梁なども許容荷重をより大きく設計する必要があります。
日本の路線は曲線・勾配区間が多く地盤が弱いことから、軌道への負荷は重要な要素となります。
【走行性能】
動力集中方式では軌道と接する動輪の数が動力車のみに限られるため、起動加速度は動力分散方式より低くなり(加速性能が良くない)、上り勾配でも速度を出しにくい。
勾配区間も多さに加え、都市部では駅間距離も短く、加速性能の悪さは列車の高密度ダイヤを構築する上でネックとなります。
【終着駅やスイッチバック時の機動性】
終着駅やスイッチバックを行う際、機関車の付け替えという煩雑な作業が発生し、機回し線などの設備が必要となります。
日本の場合、ターミナルではホームの有効長も数もヨーロッパなどに比べて少なく、機回し線を作る用地の確保などもなかなか難しい状況です。
TGVのようにプッシュブルによる動力集中方式をとれば、機回し線設備とその手間は不要となりますが、両端の動力車の分ホームの有効長などは必要となります。
貨物列車は「動力集中方式」を継続
貨物列車については、動力近代化計画以降も機関車牽引による「動力集中方式」のまま発展を続け、現在でもその方式が取られています。
その例外として、2004年に世界初の動力分散方式の貨物列車としてJR貨物M250形電車が登場していますが、現時点でM250形の運用が当初の運用より拡大していないことから、ここでは「貨物列車=動力集中方式」として捉えることとします。
貨物列車が「動力集中方式」として継続している理由、「動力集中方式」のメリットとしては、以下のようなことが挙げられます。
【コスト面】
機関車はともかく、動力を持たない貨車の製造費が安価であり、長編成になるほどコスト的に有利となります。
また、動力が機関車に集中しているため、点検が複雑にならずメンテナンス時の労力が軽減されます。
貨車(非牽引車両)に動力などの余計な設備の搭載が不要となることから、その分1両あたりの有効積載量をより多く取ることができます。
【柔軟な運用】
貨車(非牽引車両)に走行機器がないため、需要や状況に応じた増結・減車を自由に行うことができます。
また、機関車を付け替えれば異なる電化方式や非電化区間にも直通することは可能であり、臨海鉄道や専用線などに貨物列車をそのまま乗り入れなどもある貨物列車にとっては必要不可欠なメリットとなっています。
動力方式の異なる列車を同じ路線で運行していますが・・・
個人的には以下のことが気になっています。
今後、いろいろと深堀をしていこうかと思っています。
- 都市部の通勤路線に貨物列車を走らせる際、電車と貨物列車の加速度や制動距離の違い等を考慮した上で列車ダイヤを組まなくてはならず、特に通勤時間帯などの過密となる時間帯には貨物列車のスジを入れるのは難しいのでは・・・
- 1~2両編成程度で運用されるJR地方ローカル線やや第三セクターなどに、重量のある機関車や長編成の貨物列車が乗り入れる場合、線路の保守や耐久性を貨物列車に合わせたより強固なものにしなければならず、それらのコストに見合った費用をJR貨物から収受できているか。
- 現在議論となりつつある貨物新幹線の開発・運行では、動力方式はどうなるのか、また仮に実現したとしても、上記のように柔軟に運用している既存の貨物列車の運用の完全な代替えとなり得るのか。